避難中の方
水がほとんどない——それでも歯みがきはできます
約30ml(紙コップに指1本分ほど)の水があれば歯みがきはできます
水がないから歯みがきは無理、とあきらめないでください。約30mlの水で磨けます。被災生活で口の中の清潔が保てなくなると、肺炎や持病の悪化のリスクが高まると考えられています。肺炎には、口の中の細菌が誤って肺に入って起きる「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」も含まれます。歯みがきは、その入口を減らすためにいますぐできることのひとつです。
約30mlの水をコップに用意する
紙コップに指1本分ほどの深さが目安です。この水は「すすぎ用」なので、最初に全部使わないのがコツです。
歯ブラシを水で軽く濡らして磨く
水が乏しいときは、練り歯みがき剤は使わないほうがすすぎの水を節約できます。歯と歯ぐきの境目、奥歯のかみ合わせ面を中心に、1本ずつ小刻みに磨きます。
合間に歯ブラシの汚れをティッシュで拭き取る
磨いている途中でこまめにブラシの汚れをティッシュやガーゼで拭き取ると、少ない水でも汚れを口に戻さずに済みます。
残りの水を2〜3回に分けて口に含み、すすぐ
一度に全部の水を使わず、少量ずつ2〜3回に分けて口に含み、頬を動かしてブクブクしてから吐き出す、を繰り返します。飲み込む力が弱っている方、自分で水を吐き出せない方に水を口に含ませると、誤嚥のおそれがあります。無理にすすがせないでください。
歯ブラシがないときは、清潔なガーゼやハンカチ、口腔用のウェットシート(アルコールの入っていないもの)を指に巻き、歯の表面を前歯から奥歯へ順にこすって歯垢(プラーク:歯の表面につく細菌のかたまり)を拭き取ります。口腔ケアシート(歯みがきシート)は1回1枚、面を替えながら「歯の表→裏→かみ合わせ→歯ぐき・頬の内側」の順で拭くと効率的です。洗口液(マウスウォッシュ)があれば併用すると汚れが落ちやすくなります。
指に巻いて拭くときの注意
ティッシュなど濡れると崩れるものは、口の中に入れないでください。口の中でちぎれて残ると、窒息や誤嚥の原因になります。ガーゼやシートは指に巻いて端を必ず口の外に出したまま持ち、拭いたらすぐ口から出し、口の中に何も残っていないか毎回目で確かめてください。ご家族など、ほかの方の口を拭くときは、噛む力が残っている方、口に触れると強く噛み込む方、認知症のある方、自分で吐き出せない方には、指や布を口の中に入れる方法は行わないでください。洗口液は、口に含んだものを自分で吐き出せない方には使わないでください。
飲む水は、我慢しないでください
「トイレに行きたくないから」と水分を控えると、口が乾いて細菌が増えるだけでなく、脱水やエコノミークラス症候群(血の固まりが血管に詰まる病気)のリスクも高まります。飲む水と、お口をきれいにする水は、削らないでください。※心臓・腎臓の病気(透析を受けている方を含む)や肝臓の病気などで水分量を指示されている方は、主治医の指示を優先してください。
エコノミークラス症候群の予防と、すぐに救護所や119番に相談が必要なサインは、Q&A「車中泊で気をつけることは何ですか」にまとめています。 車中泊で気をつけること →
すぐに相談が必要なサイン
片方の脚の腫れ・痛み・色の変化・左右差。急な息切れ、胸の痛み、意識が遠のく感じ(血のかたまりが肺に飛んだサインのおそれがあり、命に関わります。ためらわず救護所または119番へ)
備蓄の量や水の割り当ての考え方は「家庭向け お口の防災チェックリスト」ガイドに詳しくまとめています。 家庭向け お口の防災チェックリスト →
義歯の方
入れ歯をなくした・壊れた
「ないまま我慢」がいちばん危険です。救護班に申し出てください
噛めない状態が続くと食事量が減り、低栄養につながります。避難所の救護班・保健師に「入れ歯をなくした」と必ず申し出てください。大規模災害ではJDAT(日本災害歯科支援チーム)などの巡回歯科班が応急対応を行い、本格的な治療・調整は地域の歯科医療機関に引き継がれます。
保険証を持ち出せなくても、あきらめないでください。過去の大規模災害では、氏名等の申告で歯科受診できる特例措置が設けられています。まずは救護班・保健師に申し出てください。
洗浄剤がないとき:毎食後に外して拭う
水が足りないときは、清潔なガーゼ、または口腔用のウェットシート(アルコールの入っていないもの)で義歯の内側・外側の汚れを拭き取ります。アルコールや除菌成分・香料の入ったウェットティッシュしか手元にないときは、拭いたあとに水を含ませたガーゼで拭き直してから装着してください。口に入れたままでは清潔になりません。少なくとも1日1回は必ず外して手入れします。
部分入れ歯はバネ(金属部分)を重点的に
バネの内側は汚れが残りやすい場所です。歯ブラシや細い綿棒でこすり落とします。
中性洗剤を使えるのは、すすげる水があるときだけ
義歯洗浄剤の代わりに食器用中性洗剤を薄めてブラシ洗いできますが、これは流水で十分にすすげるだけの水があるときに限ります。すすぎ水を確保できないときは洗剤を使わず、手順1の拭き取りだけにしてください。洗剤が残ったまま口に戻すと、粘膜への刺激や、吐き気・下痢の原因になることがあります。研磨剤入りの歯みがき剤は義歯を傷つけるので使いません。
やってはいけないこと
熱湯に入れる(変形します)、家庭用の塩素系漂白剤に漬ける(薄めても使わないでください。金属のバネが傷み、薬液が残ると口の粘膜を痛めます)、乾いたまま放置する(ひび割れ・変形の原因になります)。この3つは避けてください。
これ以上なくさないために
- 就寝時は外して、フタ付きの義歯ケースに水を張って入れ、置き場所を固定する乾燥すると変形の原因になります
- ティッシュに包んで置くのは厳禁ゴミと間違えて捨てられる・踏んで割れる、といった事故が起こりやすいと考えられます
- 義歯ケースに油性ペンで氏名を書く避難所の洗面所での取り違え・紛失防止に有効です
義歯の備えと手入れの詳細は「高齢者・介護者向け 備えガイド」にまとめています。 高齢者・介護者向け 備えガイド →
避難中の方
口が乾いてつらい
対策の基本は、保湿剤で外から補うことです。唾液腺マッサージも慣習的に紹介されています。唾液には細菌を洗い流し、粘膜を守る働きがあります。避難生活では水分の我慢・ストレス・薬の副作用が重なって唾液が減り、口がねばつき、痛み・口臭・飲み込みにくさが出ます。
耳下腺(じかせん)マッサージ
指を数本そろえて耳たぶのやや前(上の奥歯のあたりの頬)に当て、円を描くように後ろから前へ10回ほど回します。
顎下腺(がっかせん)マッサージ
あごの骨の内側のやわらかい部分を、耳の下からあご先に向かって4〜5か所、親指でやさしく各5回ずつ押します。
舌下腺(ぜっかせん)マッサージ
あご先のとがった部分の真下から、両手の親指で舌を押し上げるようにゆっくり10回押します。
行う場合の注意
脱水のあるときにどれだけ唾液が増えるのか、臨床的にどの程度意味があるのかは明確ではありません。行う場合も、水分補給や保湿の代わりにはなりません。痛みや腫れがあるところは触らないでください。
保湿用品が手に入ったら
- 口腔保湿ジェルは、ごく少量(米粒から小豆大ほど)を指や綿棒にとり、舌や頬の内側に薄く伸ばす。のどの奥や上あごの奥には塗らない塗る前に、前に塗ったジェルを湿らせたガーゼやスポンジブラシで必ず拭き取る。拭き取らずに重ね塗りを続けると、乾いて固まったジェルがはがれ、のどに落ちて誤嚥や窒息の原因になることがあります
- 洗口液はアルコールフリー・低刺激タイプをアルコール入りは乾燥を悪化させることがあります
- 唇の乾燥・ひび割れにはリップクリームを唇の痛みは食事量低下につながります
水分は「一気に」ではなく「こまめに少しずつ」。トイレを心配して水を我慢すると、脱水・口腔乾燥・エコノミークラス症候群のすべてのリスクが上がります。むせやすい方は次のセクションのとろみ付けを活用してください。※心臓・腎臓の病気(透析を受けている方を含む)や肝臓の病気などで水分量を指示されている方は、主治医の指示を優先してください。
口腔乾燥対策の詳細は「高齢者・介護者向け 備えガイド」にまとめています。 高齢者・介護者向け 備えガイド →
ご家族
むせやすい家族がいる
避難所で配られる食品には、飲み込む力が弱った方には危険なものが少なくありません。「普段の食事ならなんとか食べられる」方ほど要注意です。まず、次の食品と食べ方に気をつけてください。
飲み込む力が弱った方に危険な避難食
- 乾パン・菓子パン・クラッカー口の水分を奪ってパサつき、のどに詰まりやすい。スープや牛乳などの水分に浸して湿らせ、小さくちぎって
- 餅・こんにゃくゼリー窒息事故の代表格。避難所では避けるのが無難です
- 板海苔・わかめ・青菜の葉上あごや喉に貼り付きます
- カップ麺・味噌汁などの「さらさらした熱い液体」すすり込みでむせやすい。少し冷まし、必要ならとろみ剤を
- パンとお茶を「交互に流し込む」食べ方口の中で混ざった状態が最も誤嚥しやすくなります。飲み込んでから次の一口へ
工夫1:ふやかす・つぶす
アルファ化米は規定より多めの水でやわらかく戻す、パンはスープや牛乳に浸すなど「水分を含ませて均質にする」のが基本です。
工夫2:姿勢を整える
できるだけ椅子に深く腰かけ、軽くあごを引いて食べます。寝たままの食事は最も誤嚥しやすい姿勢です。座れない場合も上体を起こし、食後すぐに横にならないでください。
工夫3:一口量と交互嚥下(こうごえんげ)
一口はティースプーン1杯程度。口の中のものを飲み込んでから、とろみ付きの水分をひと口、と交互に飲み込むと、喉に残った食べかすを流せます(口に入れたまま水分で流し込む食べ方とは違います)。
このサインが出たら、すぐ救護班へ
食事中に毎回むせる、痰が増えた、微熱が続く、ぼんやりしている——は誤嚥性肺炎のサインのことがあります(高齢者は高熱が出ないことも多い)。救護班・保健師にすぐ相談してください。
とろみ剤の使い方・備蓄量の計算は「高齢者・介護者向け 備えガイド」に詳しくまとめています。 高齢者・介護者向け 備えガイド →
ご家族
子どもの歯みがき
学童のお子さんには、大人と同じ「約30mlの水での歯みがき」の手順が使えます。乳幼児はガーゼでの拭き取りが基本です。年齢ごとのポイントを押さえてください。
年齢別のポイント
- 乳幼児(0〜5歳):湿らせたガーゼでの拭き取りが基本です。歯が生える前は歯ぐきを拭きます洗口液は誤飲のおそれがあるため使いません。乳幼児用の口腔ケアシートも使えます
- 学童(6〜12歳):自分で磨ける年齢でも、災害時は不安で手が止まりがち親が声かけ・仕上げ確認をしてあげてください
- 「食べたら拭く・磨く」を家族のルールにする水がなくてもシートやマッサージでできることがあります
家族構成別の備えは「家庭向け お口の防災チェックリスト」ガイドにまとめています。 家庭向け お口の防災チェックリスト →
避難中の方
避難が長引いたら:1日1回はていねいに
1日1回しかできないなら、寝る前を選んでください
眠っている間に、唾液が少しずつ気管に入り込んでいることがあります。むせないため本人も周りも気づきにくく、「不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)」と呼ばれます。これが高齢の方の肺炎の原因のひとつと考えられています。口の中を清潔にしておくと、唾液に含まれる細菌が減り、肺炎を起こしにくくなると考えられています。回数を増やせないときは、寝る前の1回をていねいに行ってください。
避難生活の口腔ケア日課(水の目安つき)
- 朝食後:歯みがき→少量の水でうがい。義歯は外して拭き洗いうがいは約30ml(15ml×2回)
- 昼食後:うがい+口腔用のウェットシート(アルコールの入っていないもの)や清潔なガーゼで歯の表面を拭く。口が乾く人は保湿ジェル+唾液腺マッサージうがいは15ml×1〜2回
- 夕食後〜就寝前:1日で最もていねいに。歯みがき→舌・粘膜の清掃→うがい→保湿ジェル。義歯は外して洗い、水を張ったケースで保管うがいは約30ml(15ml×2回)
自分でうがいができ、水をきちんと吐き出せる方であれば、30mlを一度に含むより、15mlずつ2回に分けてブクブクするほうが汚れを外に出しやすいと考えられています。むせやすい方、寝たままの方、自分で吐き出せない方には無理にうがいをさせず、歯ブラシやスポンジブラシに付いた汚れを、そのつど口の外でティッシュやガーゼに拭き取る方法にとどめ、口に入れる水は最小限にしてください。うがいは歯みがきや拭き取りの代わりにはなりません。吐き出す先はポリ袋+ティッシュで。週1回は、口臭の悪化・舌の白い汚れ(舌苔:ぜったい)・口内炎・食事中のむせの増加がないか確認し、1つでも悪化していれば巡回歯科班や救護班に相談してください。
介助が必要な方のケア手順を含む詳細は「高齢者・介護者向け 備えガイド」の日課表にまとめています。 高齢者・介護者向け 備えガイド →
避難所運営者
避難所を運営している方へ
開設〜運営期にお願いしたいこと
- 口腔ケアコーナーを設置する手洗い場・給水所の近くに、鏡・照明・ゴミ袋・コップ置き場を確保。掲示文例:「歯みがき・入れ歯洗いはこちらでお願いします」
- 歯ブラシは衛生上、1人1本の個別配布とし、共用しない
- うがい・歯みがき用の水を飲料水と別枠で見込む目安として1人1日コップ1杯(約200ml)
- 館内放送・掲示で口腔ケアを呼びかける掲示文例:「食後と寝る前の歯みがきで、口の中を清潔に保ちましょう。口の中の細菌が減り、肺炎を起こしにくくなると考えられています。水が少ないときは洗口液や口ふきシートをご利用ください(洗口液は、口に含んだものを自分で吐き出せない方には使わないでください)」
- 義歯(入れ歯)使用者・介助が必要な方を把握する食事でむせる・口の乾き・義歯の紛失は要フォローのサイン
- 在宅避難者・車中泊避難者にも物資配布と声かけの経路を確保する
断水を理由に口腔ケアを中止しないでください
少量の水を紙コップにとって歯ブラシをすすぎながら磨く、洗口液や口腔清拭シートを併用する、義歯は毎日はずして清掃する、といった代替手順があります。水が足りないことを理由に、避難者への呼びかけをやめないでください。
スクリーニング票の様式や備蓄基準は「自治体向け 導入ガイド」にまとめています。 自治体向け 導入ガイド →
避難中の方
歯科の支援を受けるには
大規模災害では歯科の支援チームが被災地に入ります。JDAT(日本災害歯科支援チーム)は2022年に創設され、能登半島地震(2024年)では計127チームが派遣されました。避難所の運営本部・救護班・保健師に伝えれば、こうした巡回支援につながります。「避難所で歯科に相談するのは大げさ」ではありません。遠慮なく声をかけてください。
そのまま使える伝え方
- 入れ歯をなくした・壊れた → 救護班・保健師・避難所運営本部へ「入れ歯をなくして食事が噛めません。歯科の巡回や相談窓口はありますか」
- むせて食べられない → 食料配布の担当・保健師へ「飲み込む力が弱く、普通の水やパンでむせます。おかゆ・やわらかい食品・とろみ剤はありますか」
- 口が乾いて痛い・しゃべりにくい → 救護班・巡回の看護師へ「口の中がカラカラで痛みがあります。口腔ケア用品(保湿ジェルやスポンジブラシ)の支援物資はありますか」
- 家族の口のケアができない → 保健師・介護職の応援スタッフへ「寝たきりの家族の口のケアの仕方を教えてください。歯科衛生士さんの巡回はありますか」
- 発熱・痰の増加・元気がない → 救護班(医療)へ「食事のたびにむせていた家族が発熱しました。誤嚥性肺炎が心配です」
断られても、一度で諦めないでください
物資や巡回チームは日ごとに変わります。翌日また別の担当者に伝えてください。ご本人が言い出せない場合は、家族や隣の避難者が代わりに伝えてかまいません。「あの方、食事のたびにむせています」の一言が、支援につながるきっかけになります。支援を求めることは「わがまま」ではなく、正当な医療ニーズの申告です。
支援の求め方の詳細は「高齢者・介護者向け 備えガイド」に、支援体制の全体像は「自治体向け 導入ガイド」にまとめています。 高齢者・介護者向け 備えガイド → 自治体向け 導入ガイド →